こんにちは、ほしクズです。
2024年度の介護報酬改定に向けて、厚生労働省の社会保障審議会に続き、財務省の財政制度等審議会においても、社会保障費に関する議論が開始され、介護報酬改定に向けた議論も始まりました。
今回の介護報酬改定において、財務省は社会保障費削減に向けた動きを本格化させる流れで、介護業界にとっては試練の報酬改定になることが予想されます。
今年度末には、介護報酬改定に向けた大枠が決定すると見られており、私たち介護に携わるものは、その動きを注視しながら、今後の事業展開について考えていく必要があります。
今回の財務省財政制度等審議会で、介護保険制度改革について挙げられた論点の中で、特に介護業界で注目されている内容が以下の3つです。
介護保険制度改革の論点
①要介護1・2の高齢者を軽度者とする
②居宅介護支援におけるケアプランの有料化
③介護給付の利用者負担を原則2割
これらの内容については、介護保険を利用する側・介護事業を行う側のいずれの立場においても、負担が大きくなることを意味するもので、単に財政面での議論で片付けられる問題ではありません。
このことについては、2024年度の介護報酬改定までに、介護業界の実情をきちんと国に届けていくとともに、報酬改定の動向を注視していき、事業者としての今後のあり方について考えていくことが必要です。
今回の記事では、2024年度の介護報酬改定に向けて考えるきっかけとして、この度の財務省財政制度等審議会の内容について、まとめていきます。
財務省「財政制度等審議会」の内容
令和4年4月13日に行われた財務省の財政制度等審議会では、社会保障に関するテーマとして次のことが検討されました。
財政制度等審議会の資料はこちら⇒財務省「財政制度とう審議会(社会保障)資料1」
財政制度等審議会の内容
①新型コロナウイルス感染症の対応について
②総論
③医療
④介護・障がい
⑤子ども・子育て
そして、④介護・障がいに関する議論の中で、2024年度介護報酬改定に関連する検討事項として、特に注目すべき論点が次の3つのことになります。
介護報酬改定に関する論点
①要介護1・2の高齢者を軽度者とする
②居宅介護支援におけるケアプランの有料化
③介護給付の利用者負担を原則2割
この4つの論点について、詳しく確認していきます。
介護保険制度スタートからの介護保険費用の推移
2000年(平成12年)にスタートした介護保険制度は、創設から20年以上が経過しました。
社会保障費における介護保険費については、急速な高齢化の波を受けて、予想を上回るペースで増加してきました。
また、介護保険料についても、要介護認定者数の増加や居宅サービス費の増加が予想を上回り、当初の見込みを超えるペースで増加してきました。
介護保険制度は、高齢化が進む日本社会における介護ニーズへの対応、核家族化などによる家族状況の変化への対応、そして社会的入院の解消とそれに伴う医療保険から介護保険への移行を目的として創設されましたが、医療保険の負担減少効果が、予測よりも大幅に少なく、限定的であったという結果になりました。
今後も介護保険制度を継続・運用していくためには、団塊の世代が全員75歳以上になる2025年を前に、財政面できちんと見直しを行う必要性が出てきてしまったというのが現状です。
よって、財務省が社会保障費の削減として、介護報酬にメスを入れることは、ある意味当然の流れであります。
論点① 要介護1・2の高齢者を「軽度者」とする
財務省では、今回の議論の中で、要介護1・2の高齢者を「軽度者」として定義しました。
訪問介護の生活援助をはじめ、多様な人材、多様な資源を活用したサービスの提供を可能にすることが効率的
財政制度等審議会・財政制度分科会
つまり、要介護1・2の高齢者については、全国の市町村がそれぞれ介護予防などを展開する総合事業の枠組みに移すべきであるという意見になります。
総合事業とは
○正式名称「介護予防・日常生活支援総合事業」いいます
○市区町村が中心となり、住民やボランティア、NPO、民間企業、社会福祉法人、共同組合など、多彩な事業主体によるサービスが提供され、これまでの介護サービス事業者による介護予防サービスに加え、高齢者自らサービスを選択し利用することができます
○分かりやすく言うと、「介護保険サービス=国の制度」「総合事業=自治体の事業」となります
介護保険の総合事業では、市町村が地域の実情に応じてサービスの運営基準や報酬などを独自に定めることもできるるもので、全国一律のルールに基づく給付とは異なり、インフォーマルな社会資源を活用して人員配置を緩和するなど、報酬単価を下げるなどの対応も可能となります。
論点①に対する介護現場の声
今回の審議内容は、あくまで財務省が意見しているものであれば、ある程度納得できます。
「介護現場を見たことがない素人の人たち」
「数字でしか物事が見えていない井の中の蛙集団」
私たち介護現場の者から見れば、こんな感じでしょうか⁈
実際の要介護1・2の高齢者の中には、事実大変な人たちが大勢います。
○歩行時にふらつきがあり、転倒リスクが高いが、ひとりで歩きだす高齢者
○移動に車椅子が必要なひとり暮らしの高齢者
○慢性心不全で、動くだけでも体力を消耗するひとり暮らしの高齢者
○認知症があり、判断能力や危険予測が難しくなり始めた身体が元気な高齢者 など。
例をあげればキリがありませんが、こういう人たちが介護保険から切り離される可能性があるということです。
また、事業所の経営面においては、総合事業のご利用者は報酬単価が低いため、意図的に利用者を区別したり、総合事業の対象者をとらない事業所があります。要介護1・2が軽度者として総合事業の対象者とされれば、それこそ制度から締め出されてしまうことも考えられるのです。
この点において、本当に軽度者として総合事業でニーズに応えられるのか、議論の必要性がありそうです。
論点② 居宅介護支援におけるケアプランの有料化
介護報酬改定の議論のたびにあがる居宅介護支援におけるケアマネジメントのあり方に関する議論についても、今回の審議会で話題になっています。
サービス利用が定着し、他のサービスで利用者負担があることも踏まえれば、利用者負担を導入することは当然
財政制度等審議会・財政制度分科会
財務省の考えとしては、
「自法人の居宅に対して、法人のサービスを活用するような圧力がある」
「ケアプランに介護保険サービスを盛り込まなければ、介護報酬が受け取れないため、安易なサービス利用や福祉用具の導入を行うケアマネがいる」
という部分にメスを入れたい考えのようです。
ケアプランが、10割給付である理由としては、
サービスを必要とする要介護の高齢者が、積極的にサービスを活用する目的
であったはずです。自分でケアプランを作るということも可能ですが、専門知識を要していない一般の人たちは、サービス導入には、どうしても居宅介護支援に頼らざるを得ません。
論点②に対する介護現場の声
法人内の居宅介護支援事業所からしてみれば、自法人が運営する事業所の方が内容も詳しく説明できますし、メリット・デメリットをしっかりと伝えることができます。法人・上司からの圧力は論外ですが、自信を持って自法人のサービスを進めることは、決して悪いことではないと思います。
そして、利用決めるのはあくまでご利用者自身です。十分な情報提供を行った上で、自法人のサービスを選んでくれれば、嬉しいことこの上ないはずです。
まるで全ての事業所で利益誘導しているかのような視点しか持てない財務省には、違和感しかありません。
逆に、ケアプランを有料化することで、ケアマネがご利用者・ご家族の反映しなければならない圧力や空気感が生まれ、かえって介護給付費の増大を招く可能性もあります。
「そもそもお金がない人は、介護保険利用できないよ。」
と言っているようにも聞こえてしまいます。
論点③ 介護給付の利用者負担を原則2割
介護サービスの利用者負担は現行、個々の所得に応じて1割から3割に設定されています。ご利用者の9割が1割負担なっていますが、財務省は2割、3割の対象を広げて給付費抑制につなげたい考えです。
制度の持続性を優先する場合、ご利用者の負担増は避けられず、所得の判断基準についても見直しを検討するべきであると主張しています。
論点③に対する介護現場の声
安易に不必要なサービスを利用することを抑制することにはつながるかもしれませんが、物価が上昇していく中で、賃金は上がらず、利用を控える世帯も一定数出てきます。
もし、負担が大きくなれば家族が介護をせざるを得ない状況が生み出され、介護離職やヤングケアラーの増加など、社会全体としての生産性の低下・経済の停滞につながる可能性もあります。
財務省は、削減することばかりではなく、経済を動かす・利益につながる提言をしていってほしいと思います。
まとめ
今回、財務省の提言・主張いうことで、「現場を知らない人達の意見」として、違和感や怒りを感じる人も多かったと思います。様々な面で、国と介護現場との認識のズレが顕著になったとも言えます。
しかし、文句ばかり主張していても意味がありません、実際、介護報酬改定では実現する可能性が高い施策ですので、それに対して我々がどう対応していくのかを考えていかなければならないのです。
高齢者の増加、働く世代の減少、経済の停滞は間違いなくやってきます。
私たちも、今までの価値観に囚われず、良い意味で様々な事業体や組織が連携していく事が必要です。