こんにちは、ほしくずです。
今回は、看取り介護に関して食事をめぐる多職種の意見の違いについて考えてみました。看取り期になると、食事量が減少したり、咀嚼・嚥下が難しくなり、誤嚥のリスクが高まったり、食事に関しては特に気を遣うと思います。
また、生活相談員や管理栄養士、介護職員、看護職員といった各専門職間においても、意見の相違が出てきたりします。
結論から言ってしまえば...
専門性が違うため意見の相違があって当然であり、大切なのはお互いが尊重し合いながら、ご利用者にとって最善のケアを考えていくことが重要です!
この記事では、あるケースを参考にしながら、看取り期における食事の在り方について考えるきっかけにして頂ければ嬉しく思います。
看取り期になる女性のケース
・95歳/女性/3年前の脳梗塞(左半身麻痺)を患い、日常生活においては、ほぼ全介助の状態/要介護5
・身元引受人は本人夫、子供は長男・長女がおり、長女は結婚して隣の市に住んでいる。本人妻、長男夫婦、孫が同居
状態の経過
- 脳梗塞でほぼ寝たきりの状態。1年ほど前から徐々に口数が減り、活動意欲の低下、日中もベッド上で傾眠傾向であることが増えてきた。
- 現在、食事の形状は全粥きざみ食で、リクライニング型の車いすに座り、食堂ホールで介助を受けながら召し上がっている。食べる意欲はあるものの、嚥下するとむせ込みがみられ、その頻度も徐々に増えてきた。誤嚥のため救急搬送されたことがあり、誤嚥性肺炎も起こしたことがある。
- 本人夫や長女が定期的に面会に来られ、ご本人の好物である蕎麦や刺身を持参される。こちらでご本人の調子を見ながら召し上がって頂いているが、むせ込みながらも嬉しそうに全て食べれている。
- ご家族は、なるべく長生きをしてほしいと考えているが、食事の摂取が難しくなってきた場合の胃瘻等は必要ないと考えている。
- 看護師は、咀嚼・嚥下機能が著しく低下しており、誤嚥による窒息や肺炎を防ぐために経口摂取は控えることが今の最善と考えているが、介護職は入居者に食べる意欲がある限り、食べたいものを食べてもらいたいと考えている。
- 管理栄養士は、食事の工夫や嗜好品を提供して、食べる意欲がある以上、食事を提供するべきと考えている。
- 生活相談員は、ご家族のお気持ちに寄り添いつつ、客観的に状態を把握し、必要なことはご家族にお伝えしている。
関わる人たちの想い
ご家族や各職種間において様々な想いや意見が出てくるのが看取り期の難しいところです。
特に生活相談員は、すべての話に耳を傾けつつ、客観的な視点で状況を捉え、整理する力が必要になってきます。今回のケースにおけるそれぞれの想いや意見は以下の通りです。
関わる人たち | 想いや意見 |
---|---|
ご本人 | ・言葉は少ないが、食事の時の表情はとても嬉しそうで、食べることを楽しみにしている様子。 |
ご家族 | ・昔から食べることが好きだった。日中のほとんどをベッド上で過ごす中、食事は本人にとっての楽しみである。人生の最期が近づいている中、好きなものを食べて過ごしてほしい。それで具合が悪くなっても仕方がない。 ・長く生きてほしいと思うが、胃瘻などは希望しない。自然に任せたい。 |
介護士 | ・今の生活の中で食べることが楽しみになっている。ご本人の意欲があれば食べてもらいたい。 ・咀嚼、嚥下の機能が低下している中で、食事介助に不安がある。 |
看護師 | ・現在の咀嚼・嚥下能力では、誤嚥による窒息や肺炎の危険性が高い。誤嚥性肺炎にあれば、状態がさらに悪化する可能性がある。 ・食べる意欲があるので、食べてほしいと思う。しかし、それで苦しい思いをしたり、死に至る事態も可能性としてはあるため、安全な形状で、十分な観察のもとで介助し、急変時はすぐに対応できる体制を整えておきたい。 |
管理栄養士 | ・ご本人の嗜好に合った食事提供や昔から好きだったもの、ご家族が持ってきたものなどを工夫して提供したい。 |
生活相談員 | ・ご本人のお気持ちを推察したり、ご家族の意向に耳を傾けながら、可能な限りその意向に沿った形にしてあげたい。しかし、実際に介護を行う現場の不安やリスクもあるため、できること・困難のことの見極めを多職種で考えていきたい。 |
医師 | ・状態に合わせた食事形態の変更や栄養補助食品を使うことで、必要な栄養を摂取する。ご本人や家族が希望すれば胃ろうを造設も可能である。 |
あなたは、このご利用者の食事についてどう考えますか?
ご本人やご家族の想いや意向は、皆が同じではありません。また、看取り期に過程においても、その気持ちが変わることも予測されます。そのような中で、各専門職でも意見の相違は必ず出てきます。
あなたが、そのご利用者に対してできることは何でしょうか?
『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』には、このように書いてあります。
・本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則
・本人・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行うことが必要
・本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本
好きなものを食べたいというご利用者や食べてほしいと願うご家族の気持ちに応えたいという、生活の場としての観点を大切にする介護職員。
気持ちは尊重したいがアセスメントに基づいた危険性を考慮すると、安全に経口摂取を行う条件が整わなければ、リスクを高めるだけであり、ご本人の苦痛や死を早めることにつながる可能性を考える看護職員。
その間で、調整を行う生活相談員。
それぞれの専門性の違いから、考え方が違うのはある意味当たり前のことです。まずは、お互いがその専門性の違いを理解することが大切です。
ケースについてどう考えていくのか
『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』にあるように、まず大切なのはご利用者にとっての最善とは何かを考える視点です。
必要な視点
- 現在の嚥下機能で、好きなものを食べたいというご利用者の思いを尊重するにはどうしたらよいか。
- ご利用者や家族の食べたい、食べてほしいという気持ちを尊重するために、最も良い方法は何か。
- 看護師、介護職、、管理栄養士など、ご利用者の生活に関わる様々な職種が協働した取り組みになっているか。
この視点からズレていないということを確認しながら、看取り期の食事について考えていくことが重要です。
くり返しになりますが、専門性が違うため、意見の相違があるのは当然です。各職種の意見を否定せず、尊重し合いながら話を重ねることが大切です。
具体的な取り組み
基本的に視点やアプローチの方法は違っても、「ご利用者のために」という気持ちは変わらないはずです。
介護職員と看護職員、管理栄養士などが協働して、アセスメントやご本人の状態に合わせた食形態やとろみのつけ方、一口の量、姿勢の調整について検討したり、安全な介助方法や姿勢などを考えたりしながら、それを共有していくことが重要になります。
ご利用者や家族の食べる楽しみを大切にした関わりは大切にしなければなりません。その中で、専門職として嚥下機能や認知機能の悪化によっては、代替栄養について相談したり、ご家族に説明を行ったりして、ご利用者や家族、各専門職が納得した形で進めていくことが必要です。
看取り期の対応は、ご本人の状態やご家族の意向が変わることも想定されますし、その中で各職種が専門性を発揮して様々なケースに対応していきましょう。
私が経験したケース
・ある家族の言葉「食べられなくなっても、食事は出してほしい。みんなと一緒に食事の雰囲気だけでも感じてほしい。母にとって大切な場を奪わないでもらいたい。」➡たとえ食べれなくなったとしても、食事の提供をしないことで、メリハリのある生活やその場面を奪ってしまうことになることに気づかせて頂いた。
・看取り期で食事がほとんど摂れなくなった方に対してのご家族の言葉「最期に大好きな刺身を食べてほしい。どんな形でも良い。本当の最期くらい好きなものを食べてほしい。」➡看護師が近くで吸引の準備をして、管理栄養士が食べやすい工夫をし、介護職員が介助して召し上がって頂いた。ご家族もその場に立ち合い、一緒にその時間を過ごした。言葉は出なかったが、少し微笑んでくれた。
看取り介護に間違いない手順や正解などありません。いろいろな人の想いがそこに重なっているからです。
皆が、同じ想いを持って、ご利用者の最期の時間を共有できると良いですね。